2019年7月31日

法人破産に要する費用

 弁護士 河原﨑 友太

  破産するためにはお金がかかります。

 特に,法人企業の破産の場合,個人の破産手続きの場合に比較して,大きなお金がかかることが多くなります。

「お金がないから破産したいのに,破産するためのお金がない」という状態にならないために,今回は,法人破産に要する費用問題について解説します。

個人破産との違い

 個人の破産手続きであれば,必要に応じて日本司法支援センター(通称「法テラス」)(※1)による弁護士費用の立替え払いを受けることで,必要な費用の全部,又は一部を援助してもらうことができます。あるいは,就職を果たし,月々の給与から弁護士費用等の積み立てを行うことで対応できることもあるかもしれません。

 他方で,法人の破産手続きの場合には,法テラスによる立替え払いの支援を受けることができません。また,破産をする以上,当該法人として新たに仕事を受注することができませんので(※2),ご依頼時に残っている財産から捻出することが基本となります。

 法人破産に要する費用

 法人破産の場合,大きくわけて,

①申立時の弁護士費用

②破産管財人に対する報酬の予納金

③実費

が必要となります。

①弁護士費用

 破産の申し立てを行うに際して,弁護士を代理人としなければならないという制限はありません。代表者がご自身で手続きを行うこともできます。

 ただし,債権者に対する対応,労働者の解雇手続き,店舗の明渡しなど,破産申立時にはやるべきことが非常に多く,また,破産申立前の財産処分等について,誤った処理をしてしまうと否認権行使(※3)の対象となるといった問題がありますので,弁護士に依頼されることが一般的ですし,そのようにすべきだと考えられます。

 なお,代理人弁護士を選任しなかった場合には,破産申立時に納める予納金(破産管財人に対する報酬)について,通常よりも大きな金額を求められる可能性が高まります。結果的には,費用を抑えることにはつながらないことがほとんどだと思いますので,この意味においても弁護士を選任されたほうがよろしいかと思います。

 申立時の弁護士費用は,当事務所では,50万円(消費税別)からお受けしています。法人の規模や債権者の数,事案の複雑さ等を考慮し,50万円以上の着手金を要することもあります。

 ②破産管財人に対する報酬(予納金)

 法人の破産申し立ての場合,裁判所によって破産管財人が選任されます。
 破産管財人は,破産会社や債権者とは一線を画し,中立公正な立場から,法人が破産に至った経緯の調査,財産の換価,配当等の手続きを行います。

 破産管財人もボランティアではありませんので,当該業務により報酬が発生することになりますが,その報酬については,破産を申し立てる法人においてこれを準備する必要があります。

 求められる予納金額は,予想される管財業務の内容等により異なりますが,埼玉の場合,最低20万円となっています。

 ③実費

 主として通信交通費です。当事務所では,原則として5万円をお預かりしています。

 どのように工面するか

◇事業活動が継続されている場合

 資金繰りが苦しいながらも,一応,事業活動が継続されている場合には,取引先に対する売掛金債権や請負代金債権が残っていたり,あるいは,事業のための資産(土地や建物といった固定資産,車や機械類といった動産,預貯金等の債権など)が残っている場合があります。この場合には,売掛金を回収したり,資産を売却するといった方法により現金化し,破産費用に回すことも考えなければなりません。

 なお,資産の処分にあたっては,不当に安い金額での売却とならないように注意する必要があります。また,このような処分が許容されるのは,あくまで破産申し立てに必要となる費用を捻出するためであって,例えば,一部債権者に弁済する目的や,代表者個人の生活費に費消する目的での処分は認められません。

 何をどのように金銭に変えて破産費用を捻出するかについては,専門的な知見に基づいた慎重な判断が必要となりますので,弁護士と協議しながら進めていくことになります。

 このように,一応は事業活動が継続されている状態でご相談にいらっしゃった場合には,事業資産を換価することで破産費用を捻出できる可能性があります。

◇事業活動が停止されている場合

 資金が完全にショートした状態でご相談にいらっしゃった場合,あるいは,事実上廃業となって数年が経過した後にご相談にいらっしゃった場合には,破産費用の捻出に苦心する場合が多いです。「お金が無くなったから相談に来たのに…」と,破産に要する費用を知り,意気消沈される方も多くいらっしゃいます。

 法人と代表者は別人格ですから,法人と代表者の財産はそれぞれ別に考える必要があります。そのため,原則として,法人の破産に要する費用は,法人の資産で準備する必要があり,一緒に破産する代表者個人の財産を法人の破産費用に充てることは認められないことになります。代表者個人の債権者からすれば,その財産があれば配当によって返済を受けられる可能性があるところ,これが法人の破産費用に回ることで配当が不可能になるということも考えられるからです。

 しかし,これを厳密に扱えば,破産費用を自ら捻出できない法人は,破産という法的な整理が行われることないまま放置されることになってしまいます。

 そのため,このような場合には,代表者個人の資産で,法人破産の費用を捻出することは許容されることになります。

 とはいえ,先に述べたような金額を個人の資産で準備する必要がありますので,その準備には大きな負担が生じることになります。代表者個人も会社の保証などで多額の負債を抱えている場合には,個人としての破産手続きも必要となりますので,その費用の準備も考えなければいけません。

 なるべく早めのご相談を

 以上のように,事業が一応は継続された状態から破産を検討するのと,事業が停止された状態に至って初めて破産を検討するのとでは大きな違いが生じます。
 経営者の方々におかれては,事業資金が完全にショートしてしまう前に,なるべく早めにご相談いただければと思います。

 なお,弁護士との顧問契約を締結しておけば,企業の業務内容等を把握した顧問弁護士によって,財政状況等に応じた適時のアドバイスが可能となります。
 浦和法律事務所では,法人破産の申立て業務を数多く扱っているほか,多くの弁護士が裁判所から選任される破産管財人業務を経験しています。

 法人の清算方法にお悩みの経営者の方は,是非,経験豊富な浦和法律事務所にご相談ください。

 

 

(※1)国によって設立された法的トラブル解決のための総合案内所(法テラスHPより)。経済的に余裕のない方のために,無料法律相談や弁護士費用等の立替えといった扶助業務を行っています。

 

(※2) 仕事を遂げられないと分かっていながら受注し,金銭を受け取った場合,詐欺罪等の犯罪行為に該当します。

 

(※3)破産管財人には,債務者が債権者の公平を害するような行動をとった場合に,当該債務者の行為を否認し,当該行為の効果をさかのぼってなかったことにする権限があります。

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