所有者不明土地建物管理制度について
弁護士 柳沢里美
はじめに
所有者不明の不動産が全国で増加して社会問題となっている対策として、昨年4月から相続登記が義務化されたことについては、以前、金田弁護士がコラムで紹介しました(2024年2月29日公式ブログ「本年4月から相続登記が義務化されます!!」)
今回は、所有者不明の不動産の管理に特化した財産管理制度である所有者不明土地建物管理制度について紹介します。
所有者不明不動産管理制度の特徴
所有者不明不動産管理制度は、所有者が不明である土地や建物の管理に特化した財産管理制度で、2023年4月に施行されました。
所有者不明の不動産を管理する制度としては、従前から不在者財産管理制度や相続財産管理制度などがあります。
しかし、これらの制度は不在者のすべての財産や相続財産の管理を行うこととなるためコストが高くなり、特定の不動産の管理だけを目的としている場合に利用するには非効率的です。
また、所有者を全く特定できない不動産については利用することができません。
所有者不明土地管理制度は、問題となっている個々の不動産(共有持分)を対象とすることができるので、目的に沿った効率的な管理ができます。
また、所有者が全く特定できないケースでも利用することができます。
所有者不明土地建物管理制度の内容
所有者不明土地建物管理制度の手続の流れは次のとおりです。
① 利害関係人の申立て
⇓
② 裁判所が管理命令を発令
⇓
③ 裁判所から選任された管理人により管理
利害関係人による申立て
申立てができるのは、問題となっている不動産の管理につて利害関係がある次のような人です。
・その土地が管理されていないために不利益を被るおそれがある隣地の所有者
・その土地の一部の所有者が特定できない場合や所在不明である場合の他の共有者
・問題の土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者
・その土地を時効取得したとしてその所有権移転登記を求める人
・その土地の購入計画に具体性があり、土地の利用に利害がある民間の購入希望者
管理命令
裁判所により管理命令が発令される要件は次のとおりです。
■所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地であること
所有者の特定や所在を知るために、登記簿、住民票、戸籍等を調べて必要な調査を行っても所有者やその所在が分からない場合です。
■土地の管理状況から、管理人による管理を命じることが必要かつ相当であること
典型的なのは誰も管理者がいない場合です。
所有者の所在は不明だけど第三者が適切に管理している場合は発令の必要性が認められないことがあります。
管理人による管理
■所有者不明土地の管理
所有者不明土地の管理人は、管理命令の対象の土地(共有持分)とその土地にある動産の管理をすることができます。
裁判所の許可があれば、対象の土地を処分し、その売却代金等も管理することができます。
ただし、土地管理命令の効力は土地上の建物には及ばないため、土地上の建物の処分を行うためには、建物についての管理命令も必要となります。
■所有者不明建物の管理
所有者不明建物の管理人は、管理命令の対象の建物(共有持分)とその建物にある動産、その建物がある土地の賃借権などの敷地権の管理をすることができます。
裁判所の許可があれば、対象の建物を処分し、その売却代金等を管理することができます。
所有者不明建物の管理人は、あくまでもその建物の適切に管理することが仕事なので、原則としてその建物を取り壊すことはできません。
しかし、老朽化した空き家などは、所有者が名乗り出てくる可能性、建物の価値、建物を取り壊さずに管理する場合と取り壊す場合の費用の比較、建物が周囲への悪影響などを考慮したうえで、裁判所の許可のもと取り壊しが認められる場合があります。
管理不全不動産管理制度
所有者不明不動産管理制度とともに管理不全不動産管理制度も施行されました。
これは、所有者は判明しているけれど、所有者によって適切に管理されていない不動産を対象としたものです。
管理が不適切で荒廃・老朽化している土地や建物が周辺環境に悪影響を及している場合などに、被害を受けている近隣住民などが利害関係人として裁判所に申立て、管理人による適切な管理を求めることができます。
不動産を売却したり取り壊したりする場合には、裁判所の許可と所有者の同意も必要となります。
おわりに
今回紹介した制度は施行して間もなく2年が経過しますが、活用状況の詳細はまだ明らかではありません。
明らかとなっている活用事例としては、国や自治体が事業用地の取得や空き家の解消のために活用したものがあります。
行政に限らず個人であっても、隣地との境界確定や隣地や隣地上の建物の荒廃・老朽化への対策などで所有者が分からない土地の管理を求めたい場合などに活用できます。
民間の事業者が所有者不明の土地を購入したい場合にも活用できます。
今後、制度の利用件数が増え、多様な活用方法が見いだされることが期待されます。