「偽装」フリーランス
弁護士 鈴木 幸子
昨年7月、都内の広告写真関連会社と半年更新で業務委託契約を結ぶ男性フリーカメラマンが、車で通勤途中追突事故に遭い頚椎捻挫・腰部挫傷・足の指の骨折の怪我をしました。
男性が労災申請をしたところ、労働基準監督署は、昨年10月、労災認定を前提に、会社に対し、労災保険の保険料を支払うよう通知しました。
つまり、業務委託契約という形式をとりつつ、実態は雇用契約であると認定したのです。
本来、業務委託とは、専門性や経験を必要とする業務の一部を個人(フリーランス)に委託し、業務の遂行に対して対価を支払うものです。
委託する側と受託する側は対等であって、勤務場所・時間・業務手順については原則受託する側の裁量に任され、委託する側が指揮監督はできません。
その分、仕事中の怪我や病気については、原則として労災保険の対象にはなりません(フリーランスについては、業種を問わず労災保険に特別加入できるようにする方向で、制度の見直しが進められています。但し、保険料は自己負担です。)。
本件の場合、会社はシフトを作成し、アプリで複数のカメラマンのスケジュールを管理していました。
つまり、撮影場所や時間は会社の意向に拘束されていました。
男性には他社から仕事を受ける余裕はありませんでした。
会社からは、撮影件数に関係なく、月ごとの固定報酬が支払われていました。
カメラ以外の機材は会社から無償提供されていました。
労働基準監督署はこの実態を踏まえ、男性を労働基準法など労働関係法令で保護されるべき「労働者」(勤務場所・時間・業務手順が会社の指揮監督下にあり、労務の対価として報酬が支払われており経済的にも従属している)と認定したのです。
男性のような働き方が「偽装」フリーランスと呼ばれる所以です。
働き方が多様化する今、「偽装」フリーランスも増加しています。
では、なぜ増加しているのでしょうか。
労働者を保護する労働関係法令の適用を回避したい(安価で融通の利く労働力の確保)というのが一番の動機でしょうが、双方の法的知識の欠如もあるでしょう。
今秋には、フリーランスを幅広く保護するフリーランス保護法も施行されます。
企業も働く人も、改めて、正確な法的知識を学び、契約に際し活用する必要があります。
以上