マンションを護るルールとその管理
弁護士 河原﨑友太
区分所有マンションのルール
共同住宅である区分所有マンションにはいろんな居住者がいます。
そのため,居住者間の共同の利益を守るためには,共通して守るべきルールが必要となります。
この共通のルールとして,区分所有法が存在していますが,同法はわずか72の条文で構成されている法律であり,区分所有マンションに関するすべてのルールを定めるものではありません。
そこで,管理組合(区分所有者全員で構成される団体)は,区分所有法に反しない範囲で,自主的な規則として管理規約を定め,より細かなルールを定めていくことになります。
(※以下の話は賃貸マンションとは異なりますのでご注意ください。)
管理規約の中身は?
例えば,マンションの購入を検討する際に,ペットの飼育が可能かどうかという点が購入を決める一つの要素となる方もいらっしゃるかと思います。
このペットの飼育の可否については,先に述べた区分所有法には規定がありません。
したがって,ペットの飼育の可否や,これを可とする場合の頭数などの問題については,管理規約で管理組合が定めるということになります。
その他,理事を何名置くかといった組織に関する規定や会計に関する規定等を置くことが通常となります。
なお,管理規約の作成にあたっては,国土交通省が公表する標準管理規約が参考になります。
具体的な例として
次のような設問を取り上げてみます。
(設問)Sマンションの1室を所有するAさんは,Sマンション管理規約において,その専有部分の使用を「居住目的に限る。」とされているにも関わらず,ピアノ教室を始めています。
さて,この場合において,S管理組合は,Aさんに対して何を求められるでしょうか。
まず,区分所有法には専有部分の使用目的を居住目的に限定するような定めはありません。
専有部分は各区分所有者の所有物ですので,本来であれば,(法令の制限内において)自由にその所有物の使用,収益及び処分をする権利を有します(民法206条)。
他方で,区分所有マンションでは,各区分所有者の共同の利益を守る必要があるため,管理規約において,各専有部分の使用目的を例えば「居住目的」に限定し,店舗や事務所利用を制限することができます。
したがって,S管理組合において,専有部分の使用目的を「居住目的」に限定している場合には,これがS管理組合のルールですので,Aさんのピアノ教室としての利用はルール違反(管理規約違反)に該当します。
Aさんに対してできることは?
さて,各区分所有者に対しては,「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」義務があります(区分所有法第6条第1項)。
そして,当該義務違反者に対しては,
①共同の利益に反する行為の停止等の請求(法57条)
②使用禁止の請求(法58条)
③区分所有権の競売請求(法59条)
という3つの対抗手段が定められています。
したがって,Aさんに対しては,理事長を中心とする理事会(あるいは,管理組合から委託を受ける管理会社)からAさんに対して是正の要請を出した上で,それでも規約違反行為が是正されない場合には,Aさんを被告として管理規約違反を理由としてピアノ教室の運営を差し止める請求(上記①の手段)を裁判所に出すことが考えられます。
Aさんから専有部分を賃借しているBさんがピアノ教室を行っていたら?
ルール違反をしているのが区分所有者のAさんではなく,Aさんから専有部分を借りているBさんだったらどうでしょうか。
標準管理規約第5条第2項では,「占有者は,対象物件の使用方法につき,区分所有者がこの規約および総会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。」と定められています。
「占有者」には賃借人を含みますので,同管理組合が標準管理規約と同趣旨の規定を置いている場合には,Bさんも,Aさんと同様に使用方法に対する遵守義務を負います。
したがって,Bさんがピアノ教室を行っている場合,管理組合はBさんに対して差し止めを求めることができます。
また,標準管理規約第19条第1項では,区分所有者が専有部分を貸す場合に,賃借人に対して規約および使用細則を遵守させる義務が定められています。
そのため,賃借人であるBさんが規約に反してピアノ教室をしていることを把握しながら,これを区分所有者であるAさんが放置するようなことがあれば,区分所有者であるAさんにも,損害賠償責任が生じることもあり得ます[1]。
以上
[1] 東京地裁平成17年12月14日判決など。
東京地裁の事案では、専有部分を賃借してライブハウスを営業していた賃借人に対して、有効な騒音振動防止措置を講じなかったとして不法行為責任を認めるとともに、当該専有部分の賃貸人である区分所有者に対しても、賃借人が他の居住者に迷惑をかけるような態様で使用していることを知ったときは、賃貸人はこれを是正する義務があるとして、不法行為責任が認められています。