2021年11月30日

少年法改正の概要

弁護士 岡田 宜智

はじめに

本年5月21日,「少年法等の一部を改正する法律」(以下,「改正少年法」といいます)が参議院で可決され,成立しました。

この改正法の施行日は,民法の成人年齢の引き下げと同様,2022(令和4)年4月1日とされています。

そこで,施行が間近に迫っている改正少年法について,現在の少年法の仕組みなども踏まえて説明したいと思います。

少年法の目的

少年法1条は「少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに,少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする」と規定しています。

少年法は,その根幹に「少年の健全育成」という目的があります。

これは現行法も改正少年法も変わりません。

改正がなされたといっても,この点はしっかりと認識しておく必要があります。

成人の刑事事件が,罪を犯した人に刑罰を与える手続であるのに対し,少年事件は,少年の健全育成のために少年に保護処分を行う手続であるということです。

全ての事件を家庭裁判所に送致し,家裁調査官の調査や少年鑑別所の鑑別を実施した上で,保護処分を行うという従前の手続は改正少年法のもとでも維持されます。

少年法の仕組み

少年事件は,捜査機関は事件の捜査が終了した後,全ての事件を家庭裁判所に送致しなければなりません(全件送致主義)。

そして,事件の送致を受けた家庭裁判所は,少年審判という非公開の手続に付し,事件の背景や少年の資質,家庭環境などを調査し,少年の更正を目的とした保護処分を下すことになります。

保護処分には,少年院に収容する少年院送致や社会内で保護観察官等の指導を受ける保護観察などがあります(繰り返しになりますが,これらの処分はいずれも刑罰ではありません)。

しかしながら,家庭裁判所は,調査の結果保護処分ではなく,刑罰を科すべきと判断した場合は検察官送致決定とすることがあります(検察官から送致された事件を再び検察官のもとへ送致することになるため,これを「逆送」と呼んでいます)。

また,16歳以上の少年が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件の場合は,原則として逆送決定となります(これを「原則逆送事件」と呼びます)。

逆送決定された後は,原則として検察官により刑事裁判所に起訴され,懲役刑,罰金刑などの刑罰が科されることになります。

少年については,刑罰に関して成人とは異なる特則があり,「懲役〇年以上〇年以下」というように幅をもった形で言い渡され,長期は15年を超えることができないとされています。

改正少年法の主なポイント

①18,19歳の少年は「特定少年」として扱われる

【現行法】

20歳未満の者は一律「少年」として扱われ,前述したように全件が家庭裁判所に送られ,家庭裁判所が処分を決定(保護処分,検察官送致等)しています。

【改正少年法】

20歳未満の者は一律「少年」として扱われ,全件が家庭裁判所に送られることに変わりはありません。

ただし,18歳,19歳の者は「特定少年」として位置づけられ,17歳以下の者とは異なる取扱いがされるようになります。

具体的には,特定少年に対して,保護処分がなされる場合,期間が明示されることとなります(保護観察の場合,6か月か2年のいずれか。少年院送致の場合3年の範囲内で期間が明示されます)

また,逆送決定がなされた場合は,20歳以上の者と原則として同様に扱われることになります(不定期刑の適用除外)。

すなわち,特定少年に対する有期懲役刑の期間の上限は30年になります(17歳以下の少年の場合,有期懲役刑の上限は15年です)

②原則逆送対象事件の拡大

【現行法】

家庭裁判所が逆送決定を行うのは,

ⅰ 死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき

ⅱ 16歳以上の少年が故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた故意の犯罪行為によって被害者を死亡させたとき(これを「原則逆送事件」と呼んでいます。調査の結果,刑事処分以外の措置を相当と認めるときに限り,逆送決定ではなく保護処分が選択されるということです)

の類型があります。

【改正少年法】

特定少年に関しては,ⅰの類型(刑事処分相当)に関しては,対象事件の制限が撤廃されています。

また,ⅱの類型(原則逆送対象事件)に関しては,「死刑,無期又は短期(法定刑の下限)1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件」が追加されています。

したがって,これまでは原則逆送の対象とはされていなかった,強盗,強制性交等,非現住建造物等放火などの罪も対象に含まれることになりました。

このように特定少年については,これまでよりも刑事裁判に付されて刑罰が言い渡される範囲が拡大されたことになります。

③実名報道の解禁

【現行法】

「家庭裁判所の審判に付された少年」や「少年の時に犯した罪によって起訴された者」については,犯人の実名・写真等の報道が禁止されています。

そのため,罪を犯した時点で「少年」であった者は,たとえ逆送されて刑事裁判を受けることになったとしても,本人特定に繋がるような記事や写真は掲載されません。

【改正少年法】

特定少年の時に犯した罪については,逆送されて起訴された場合に限り,上記のような報道規制は解除されることになりました。

そのため,18歳,19歳の少年が罪を犯した場合,起訴されることを条件に実名報道が可能となります。

最後に

今回の改正によって,18歳,19歳の者は「特定少年」とされ,成人と同様の扱いを受けることになってしまったといえます。

しかしながら,少年法の目的で述べたように,少年事件はあくまでも「少年の健全育成」という理念に基づいた手続です。

たとえ特定少年であっても,少年法の適用対象である少年であることに変わりはありません。

少年法の目的に沿って,家庭裁判所,家庭裁判所調査官,少年鑑別所等が関わり,少年の資質や環境等を調査し,少年の更正に向けた適切な処遇を選択するというものであることが望まれます。

原則逆送事件の対象が拡大されたとはいえ,逆送するかどうかは,少年法の目的を十分考慮した上,調査結果をもとに慎重に判断されるべきでしょう。

 

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