テレワーク導入にあたってのポイント
弁護士 守重 典子
昨今のコロナ禍により、テレワークを導入する企業も多くなっており、テレワークの導入を検討しているといった企業も多いかと思います。
一口にテレワークを導入するといっても、つぎに挙げるとおり導入の際に必要となる手続や検討すべきポイントは多数出てきます。
労働条件の明示
まず、使用者は、労働契約を締結するに際し、労働者に対して賃金、労働時間のほか就業場所に関する事項を明示することとされています(労基法15条、労基法施行規則5条1項第1の3号)。そのため、新たに労働者と雇用契約を締結し、その労働者に対し、テレワークを行わせることを予定している場合には、テレワークをおこなう場所を、雇用契約書や労働条件通知書で明示する必要があります。
なお、業務内容や労働者の都合に合わせて働く場所を柔軟に運用する場合には、就業場所についての許可基準を示したうえで「使用者が許可する場所」というかたちで明示することも可能とされています(※1)
労基法が就業場所等をはじめとする労働条件の明示を要請しているのは、あくまで雇用契約を締結する場面であるため、既存の労働者にテレワークをさせる場合には、労働条件の明示義務があるわけではありません。
しかし、労働契約法4条2項は、「労働者及び使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとする」と定めていることからすれば、テレワーク導入の際に、書面で労働条件を明示することが望ましいといえます。
勤怠管理
テレワークの場合、実際に会社へ出社した時間、会社から退社した時間をタイムカードで管理するという方法で勤怠管理をすることができなくなりますが、だからといって、テレワークの場合に、使用者が労働者の労働時間を適切に管理する義務を免れるわけではありません。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(※1)によれば、労働時間の管理方法として、現認による確認のほか、タイムカード、ICカード、パソコンの使用記録等の客観的な記録での確認を原則的な管理方法としています。
テレワークを導入する際には、このように勤怠管理をいかなる方法でおこなうか検討する必要があるといえます。
労働時間
通常の労働時間は1日8時間、1週40時間とされており、テレワークの場合にも、この原則の労働時間制をそのまま適用することももちろんできますが、テレワーク勤務になじみやすい労働時間制としてつぎのような制度を導入することも検討できます。
フレックスタイム制
❖概要
フレックスタイム制は、1か月以内の一定の期間(清算期間)内の総労働時間を1週間当たりの平均労働時間が40時間以下となるよう定めておき、その総労働時間労働することを条件として、労働者に始業・終業の時刻の決定を委ねる制度です。
❖導入の手続
フレックスタイム制を導入するには、①就業規則等により、始業及び終業の時刻をその従業員の決定に委ねる旨を定めること、②労使協定で、対象労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間、コアタイム(労働する義務のある時間帯)を設ける場合は、その開始及び終了の時刻、フレキシブルタイム(始業・終業時刻を自由に選択できる時間帯)を設ける場合は、その開始及び終了の時刻を定めることが必要になります(労基法32条の3)。
事業場外みなし労働時間制
❖概要
事業場外みなし労働時間制は、従業員が事業場外で労働し、使用者が実労働時間を算定するのが困難な場合に、所定労働時間を労働したものとみなす制度です。
❖導入の要件
事業場外みなし労働時間制を適用するには、「労働時間の算定が困難」という要件を満たす必要があり、テレワークの場合には、以下の3要件を満たす必要があります(※1)。
①当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
②当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
③当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
このうち②の要件は、「情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態にあること」と言い換えることができ、使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的指示をおこなうことが可能な状態にないこと、かつ、使用者からの具体的指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態又は手待ち状態で待機している状態にはないことをいいます。
そのため、パソコン等の回線が常時接続されていて、その間労働者が自由に情報通信機器から離れたり通信可能な状態を切断したりすることが認められていなかったり、使用者の指示に対し、労働者が即応する義務が課せられているような場合には、労働時間を算定することが困難とはいえないという理由から、②の要件を満たさないものと考えられます。
❖導入の手続
事業場外みなし労働時間制に関する労働時間の規定がない場合には、就業規則を変更するとともに、所轄労基署への届出が必要となります(労基法38条の2)。
裁量労働時間制
裁量労働時間制は,業務の性質上,労働の遂行の仕方について労働者の自由度が大きく,一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者について,実際の労働時間に関わらず,一定の労働時間数だけ労働したものとみなす制度です。
対象業務により,専門業務型裁量労働制と,企画型裁量労働制の2種類に区分され,それぞれ導入に際して必要な手続はつぎのとおりです。
❖専門業務型裁量労働制の場合
所要事項を労使協定で定め、その協定届を労基署への届出が必要(労基法38条の3)
❖企画業務型裁量労働制の場合
労使委員会を設置し、所要事項を委員会の委員の5分の4以上の賛成により決議し、決議届の労基署への届出が必要(労基法38条の4)
なお、以上のような労働時間制を採用した場合にも、清算期間やみなし労働時間が法定労働時間を超えて労働させた場合には、割増賃金を支払う必要性があることは変わりません。
休憩
テレワークの場合にも,1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上,労働時間が8時間を超える場合は60分以上の休憩を付与しなければならないことは,通常勤務の場合と同様です。
もっとも,テレワークの場合には,一定の時間,労働者が家事等のため業務から離れる時間を観念しやすいと考えられます。
このような「中抜け時間」について,ガイドライン(※1)によれば、①中抜けの開始時間と終了時間を報告させることで,その時間を休憩時間として扱うとともに,始業時刻の繰り上げ,あるいは終業時刻の繰り下げとして扱う,②休憩ではなく,時間単位の有給として扱うといった措置が例示として挙げられています。
費用負担
テレワークを導入する際、直ちに就業規則の変更が必要になるわけではありません。
しかし、テレワークをおこなう際にかかる通信費や情報通信機器等の費用について、労働者が負担をするとの取り決めをする場合には、就業規則にその旨を規定する必要があります(労基法89条5号)。
その場合の就業規則の規定例は厚生労働省のホームページにも記載されています(※2)。
さいごに
このように、テレワークの導入に際して、就業規則や労働条件通知書等の変更、修正が必要になる場合も出てきますので、厚労省から出されているガイドラインやモデル就業規則(※1、2)も参考にしながら、弁護士にもぜひ一度ご相談ください。
―参考―
※1 厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」
(https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf)
※2 厚生労働省「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」