同一労働同一賃金
弁護士 近藤 永久
同一労働同一賃金とは?
内容
最近も関連する最高裁判決が出て話題となりましたが,同一労働同一賃金とは,『同一企業・団体内で働く正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規社員(有期雇用労働者,パートタイム労働者,派遣労働者)との間の不合理な格差を解消しよう』という考え方です。
働き方改革の柱の1つであり,この理念に基づき法改正が行われ,主に以下のようなルールが定められました。
(主なルール)
①事業主は,同じ会社で働く正社員と非正規社員との間で,基本給,賞与その他のあらゆる待遇について,不合理な格差を設けてはならない。
②事業主は,正社員と同一の職務内容・配置転換可能性がある非正規社員について,非正規社員であることを理由として,その待遇に差別的取り扱いをしてはならない。
③事業主は,非正規社員から正社員との待遇の違いやその理由について説明を求められた場合には,説明義務を負う。
(※短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条,9条,14条2項)
これらのルールに違反しても直接の罰則はありませんが,不合理な格差を放置していると労使トラブルに発展し,従業員から損害賠償請求をされるリスクがあります。
いつから適用される?
大企業は2020年4月1日から,中小企業は2021年4月1日から,このルールが適用されますので,既に適用対象となっている大企業はもちろん,これから適用対象となる中業企業においても,法改正をふまえ適切な対応をとることが求められます。
なお,ここでいう中小企業とは,以下のいずれかに該当する事業者を指します。
・資本金の額又は出資の総額が3億円以下である事業主(※小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5千万円以下,卸売業を主たる事業とする事業主については1億円以下)
・その常時使用する労働者の数が300人以下である事業主(※小売業を主たる事業とする事業主については50人以下,卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人以下)
不合理な格差とは?
判断枠組み
改正法が禁止しているのは,正社員と非正規社員の間の「不合理な」格差です。
不合理性の一般的な判断枠組みは以下のとおりです。
(判断枠組み)
①まず,検討対象となっている待遇の性質・目的を明らかにする
②次に,職務内容,職務内容・配置変更の範囲,その他の事情のうち,上記①の待遇の性質及び目的に照らして適切と認められる事情を考慮して,不合理性を判断する
ポイントは,①の「待遇の性質・目的」も,②の「職務内容,職務内容・配置変更の範囲,その他の事情」も,形式面ではなく,あくまで実態=実際のところどうなっているか,が重視されるということです。
例えば,契約書や就業規則上は正社員と非正規社員の職務内容が区別されていたとしても,実際には同じ職務に従事しているのであれば,職務内容は同一と判断されます。
具体的な指標
結局のところ不合理性の判断は個別具体的事情を考慮して行うほかなく,この点が事業者にとって悩ましいところです。
もっとも,この点に関する最高裁判例も出ていますし,厚労省も参考となるガイドライン(「同一労働同一賃金ガイドライン」。厚労省HPにて公表されています。)を策定していますので,これらが有用な指標となります。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
事業者が従業員の待遇格差について検討する際には,これらの裁判例やガイドラインの「概要」を把握しておくことが必要です。
そこで,以下では,最高裁判例やガイドラインをふまえ,項目ごとに押さえておくべきポイントをご紹介します。
【基本給】
一口に基本給といってもその実態は様々です(例えば,労働者の能力を基準に支給する職能給や,年齢や勤続年数を基準に支給する年齢給,業績や成果を基準に支給する成果給など)。
共通するのは,その支給目的・趣旨からして,正社員と非正規社員の実態に相違があれば,その相違に応じた差を設けることは許容されますが,相違がなければ同一の支給を行わなければならない,という点です。
なお,正社員と非正規社員の間で将来期待される役割に差があるというだけでは,正社員と非正規社員の賃金決定基準に差異を設ける合理的理由とは認められませんので,注意が必要です。
【賞与】
賞与についても,その趣旨目的からして格差を設けることに合理的理由が認められない場合には,当該格差は違法となります。
例えば,趣旨目的が単純に貢献度に対する報奨である場合,貢献度が同じ正社員と非正規社員の間で賞与に差をつけることは違法と考えられます。
他方で,上記の趣旨目的のみならず,正職員の人材確保やその定着を図る目的があり,正社員と非正規社員の業務内容・責任に差異があれば,その差異に応じた格差を設けても違法とはならないと判断されたケースもあります。
【諸手当】
特に注意が必要です。
手当については他の項目と比較して,各事業者が独自に設定しているものや,支給の趣旨目的が不明確なものが多いからです。
各手当の格差が違法となるか否かは,その趣旨目的に照らして,正社員と非正規社員の間に格差を設ける合理性が認められるか,という観点から判断することとなります。
違法と判断されやすいものとして,皆勤(精勤)手当,通勤手当,家族(扶養)手当,住宅手当が考えられます。
これらの手当については,その趣旨からして,一般的に正社員と非正規社員の間で差を設ける合理的理由を見出しにくいと考えられます。
【退職金】
他の項目と同様に,その趣旨目的からして,正社員と非正規社員の間で差を設ける合理的理由が認められない場合には,違法とされる余地があります。
【福利厚生等】
正社員と同一の事業所で働く非正規社員には,正社員と同一の福利厚生施設の利用を認めるのが原則です。
慶弔休暇や病気休暇(正社員について有給の病気休暇が認められる場合には,有給病気休暇)についても同様です。
事業者がとるべき対応は?
現状の確認
まずは現行体制のチェックが必須です。
①自社の就業規則・賃金規定,②従業員の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲,③正社員と非正規社員の個別の待遇について格差があるか,の確認を行います。
待遇格差に合理性があるか否かの検討
現行体制をチェックした結果,正社員と非正規社員の間に待遇格差が存在する場合には,自社内でその格差を設けた趣旨や目的を確認します。
ここでそもそも趣旨目的が説明できないようであれば要注意です。
以下「就業規則,賃金規定の見直し,正社員登用制度の活用」の対応をとる必要性が高いと思われます。
また,趣旨目的を明確に説明できる場合でも,果たしてそれが合理的理由といえるか否かについては検討が必要です。
就業規則,賃金規定の見直し,正社員登用制度の活用
待遇格差について検討した結果,その格差が不合理なものであるとの判断に至った場合には,関係する就業規則・賃金規定の見直しや,正社員登用制度の活用といった対応が必要となります。
ただし,正社員と非正規社員の格差を解消するために,正社員の待遇を引き下げる(不利益に変更する)場合は原則として労使合意が必要となります。
就業規則の変更によって対応する場合も変更に合理的理由が必要ですので注意が必要です。
厚労省サイトの活用
厚労省HPにて,事業者のためのフローチャートや,同一労働同一賃金規制についてのチェックシートが公開されていますので,検討の第一歩としてこれらを活用されてみてもよいかもしれません。
https://www.mhlw.go.jp/content/000596892.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
おわりに
来年4月1日から中小事業者も同一労働同一賃金規制の対象となりますので,事業者の皆様の中には,対応に苦慮されている方もいるかもしれません。
以上述べてきたとおり,いかなる格差が違法となるかは結局は個別ケースごとに判断するほかありませんので,少しでも不安をお持ちの場合には,お近くの弁護士へご相談されることをおすすめします。
以上