2020年9月30日

養育費から見る「子どもの貧困」

弁護士  鈴木 幸子

母子家庭の現状

2016年度の全国ひとり親世帯等の調査結果によれば,母子家庭の母親の8割が就業していますが,そのうちの43.8%がパート・アルバイト等の非正規雇用です。

結婚・出産を機に仕事を辞め,一人で子育てをしながらの再就職は非正規とならざるを得ません。
そのため,平均の年間就労収入は200万円,児童扶養手当等の福祉の手当てを入れても,平均年収は240万円程度です。
そこで,別れた夫からの養育費は母子家庭にとって必要不可欠です。

養育費算定の実態

離婚に際して,養育費の金額や支払い方法を話し合いで決められない場合には,家庭裁判所の調停や審判で決めることになります。
金額については,子の年齢や人数別に定められた算定表(家庭裁判所のホームページに掲載されています)が目安となります。

しかし,この算定表には,私立高の授業料(必ずしも,公立高校に進学できる学力があるとは限りません),塾やクラブ活動の費用等が反映されておらず,社会情勢の変化に対応していないという批判が従来からありました。
2018年度の司法統計によると,調停や審判で定められた養育費の支払い額のうち,月額2万円超4万円以下が33%で最も多く,次いで1万円超2万円以下が18%,4万円超6万円以下が15%というのが実態です。

昨年暮れに算定表の金額が改定されましたが,せいぜい月額1万~2万円程度の増額にとどまりました。
算定表は一つの目安に過ぎません。
裁判所には,機械的に定めるのではなく,個別の様々な事情を考慮して決めることが求められます。

養育費の履行確保

さらに,実際には,この極めて不十分な金額の養育費の支払いすら履行されていないケースが少なくありません。

「相手とかかわりたくない」「相手に支払能力がないと思った」「相手に支払う意思がないと思った」等の理由で離婚の際に養育費の取り決めをしないケース(54%)も含めると,養育費を受け取っていない母子家庭は7割を超えるのです。

調停や審判で養育費の金額や支払方法が決められた場合には,相手方が履行を怠れば給料や預金を差し押さえることができます。
しかし,裁判所に差し押さえを申し立てるには,申し立てる側で相手方の勤務先や預金口座のある金融機関を調査しなければなりませんでした。

これまでは,個人情報保護の壁が立ちはだかり,調査は困難でしたが,今年の春から,民事執行法が改正され,裁判所が自治体や金融機関に対して,相手方の勤務先や預金口座の情報提供を命じることができるようになりました。

一歩前進ですが,日々追われて生活するなかで,改めて,費用と時間をかけて手続きをすることは容易ではありません。

貧困状態の改善に向けて

「子どもの貧困」(7人に1人)が問題視されて久しいのですが,母子家庭の子どもの貧困率は50,8%(先進国中最悪水準),実に2人に1人以上です。

生まれ育った環境により,子の将来が左右されることがあってはなりません。
貧困状態の改善に向けては,具体的な目標を定め,国が積極的に関与することが必須です。

◆ 養育費の徴収について,諸外国では,すでに,「行政が一定額を立て替えたうえで,相手方に請求する。」「相手方の給与から天引きする。」さらには「運転免許や旅券の停止,刑事罰といった制裁を設ける。」等の措置が講じられ,成果が上がっています。
わが国でも法的な整備が急がれます。

 前にも述べましたが,わが国では,離婚の際に養育費の取り決めをしないケースも54%に及ぶのですから,就学援助にとどまらず,日常生活に必要な家計費の不足分を援助する所得保障制度,安心して子どもを預けられる保育施設の拡充,非正規で働く人の賃金格差の是正等の政策を実施する必要があります。

さいごに

以上は,私が離婚事件を扱っていて実感するところでもあります。

最近は,別居親と同居親との間で,子の面会交流を巡る紛争も非常に増えています。
背景には,少子化と,両親の離婚をめぐる激しい葛藤があると思います。

裁判所は,子の面会交流と養育費は分けて考えるべきだと言います。
しかし,実際には,面会交流と養育費は密接な関係にあります。

面会交流がスムーズに実施されれば,養育費を支払う別居親の励みになりますし,別居親から養育費が手厚く支払われれば,同居親の方も面会交流に寛容になると思われます。

ところが,別居親には子の養育にかかる費用に対する認識が薄く,子との面会交流は強く求めるにも関わらず,いざ,お金の支払いとなると,自分の生活を優先するケースが多く見受けられます。

子の健全な生育にとっては,別居親の愛情と経済的な援助のいずれもが必要不可欠です。
離婚を巡る激しい葛藤を乗り越えて,子の健全な生育のためには,何とか協力し合ってほしいものです。

 

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