2020年1月31日

新・婚姻費用養育費算定表

弁護士 近藤 永久

はじめに

 昨年末頃,TVや新聞等のメディアでも少し話題になっていましたが,この度,婚姻費用・養育費の算定表が改定されました。
 算定表とは,婚姻費用・養育費の適正金額を簡易迅速に算定するために,家裁実務において活用されてきた早見表のようなものです。
 この表に,婚姻費用・養育費を請求する側・される側それぞれの収入及び子の人数・年齢を当てはめることによって,標準的な婚姻費用・養育費の金額が一目で分かるようになっています。
(※算定表が作成されるに至った経緯についてお知りになりたい方は,沼尻弁護士のブログ(「養育費と婚姻費用の算定基準(日弁連の新提言について)」)をご覧ください。)

 今回は,婚姻費用・養育費に関する基本的な知識をおさらいしつつ,この度の改定の影響についても考えてみたいと思います。
 なお,新算定表は昨年12月23日より最高裁判所HPにて公表されていますので,インターネットで検索していただければ,どなたでも閲覧可能です。

 婚姻費用・養育費の基礎知識

1 婚姻費用・養育費の中身

 婚姻費用・養育費とは,簡単にいってしまえばどちらも生活費のことですが,以下のような違いがあります。

(1)婚姻費用とは

 婚姻費用とは,夫婦共同生活を営む上で必要な一切の費用を指します。
 例えば,夫婦の衣食住に関する費用,子の監護に要する費用,教育費,出産費,医療費,葬祭費,交際費などがこれにあたるとされています。

 家裁実務では,婚姻費用の起算点及び終期(いつからいつまでの期間についての請求が認められるか)について「請求手続き」をとった時点から,離婚成立時(又は別居解消時)まで考えられています。従って,「請求手続き」より前の期間に婚姻費用の未払いがあったとしても,過去に遡って当該未払いの婚姻費用を請求することは認められないのが原則です。 

 そして,この「請求手続き」とは,通常,調停申立て又は相手方に対し支払を求める内容証明郵便を送付することを指します。口頭での請求では,「請求手続き」をとったとみなされませんので,注意が必要です。

 なお,過去の婚姻費用の未払については,財産分与の中で精算すべき問題と考えられています。

 
(2)養育費とは

 養育費とは,未成熟の子の監護に要する一切の費用を指します。
 例えば,子の衣食住に関する費用,教育や医療に要する費用などがこれにあたるとされています。

 家裁実務では,養育費の起算点について,婚姻費用と同様に「請求手続き」をとった時点(=調停申立て時又は内容証明郵便送付時)とされています。

 他方,養育費の終期(いつまでの分を請求できるか)については,「子が未成熟子でなくなったとき」と考えられており,必ずしも成年年齢とは一致しません。 
 例えば,夫婦の収入や学歴等からして,子が大学進学しても不相当でない場合には,大学生(成人済み)であっても,未成熟子として取り扱うこととなります。

 実務の傾向としては,成年年齢である20歳や,大学卒業予定の年齢である22歳を終期として取り決めることが多いように思われます。

 
(3)小括

 以上をまとめると,婚姻費用=夫婦+子の生活費養育費=子の生活費であり,その起算点は,実務上,どちらも,「請求手続き」をとった時点(調停申立て時又は内容証明郵便送付時)になります。

 現に支払いが滞っている場合や,話し合いが長期化しそうな場合には,早めに請求手続きをとっておく必要があります。

 2 婚姻費用・養育費の決め方

 婚姻費用・養育費の決め方としては,(1)協議による方法,(2)調停・審判による方法が考えられます。

 以下(1)のとおり,婚姻費用・養育費について,当事者間の協議で決定することももちろん可能ですが,そもそも話し合いすら困難なケースも多数存在します。また,話し合いは出来たとしても,合意内容が不当(標準的な金額と比べて著しく低い金額で合意する等)になってしまったのでは,あまりにも不公平です。

 このような事態を防ぐためには,婚姻費用・養育費について話し合う前提として,金額の相場を知っておくことが大切です。そして,話し合いが困難なケースでは,以下(2)の,調停・審判による方法を検討すべきです。

(1)協議による方法

 裁判所を介さず,当事者間の話し合いで決める方法です。ただし,万が一支払が滞った場合に備えて,公正証書を作成しておくことをおすすめします。

(2)調停・審判による方法
■ 調停

 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に,調停を申立てます。

 婚姻費用の場合は婚姻費用分担請求調停,養育費の場合は養育費請求調停を申立てることとなります。申立書式や記載例をHPで公開している家庭裁判所もあり,当該書式等を利用して,ご自身で調停申立てを行うことも可能です。

 調停では,調停委員が中立的な立場に立ち,当事者双方から交互に話を聞いて調整を図ることによって,話し合いを進めていきます。この際,双方とも,収入資料を提出するよう求められます。

 なお,調停では,冒頭で述べた算定表が活用されていますので,基本的には,この表に基づいて算出した金額が重視されます。当該金額を修正すべき特別事情があれば,当該事情を主張する側が,個別事情の主張ないし疎明資料の提出を行います。

■ 審判

 調停で話し合いを重ねても合意形成が難しい場合,判断資料がそろっていれば,家庭裁判所が審判によって金額を決定することができます。

 3 一度決まった婚姻費用・養育費の金額を変更することはできるか?

 合意又は調停・審判で婚姻費用・養育費の金額が決定した後に,予期せぬ「事情の変更」が生じた場合には,当事者間の合意又は調停・審判によって金額を変更することが考えられます。

 もっとも,「事情の変更」といっても,決定時に予測可能であった事情変更については,通常はその点もふまえて金額を決定したものと考えられますから,実務では,簡単に増減額が認められないことには,注意が必要です。

 増減額が認められるかの判断ポイントとしては,
①合意の前提となっていた客観的事情に変更が生じたか
②その事情変更を当事者が予見できなかったか
③事情変更が当事者の責に帰すべからざる自由によって生じたか
④合意どおりの履行を強制することが著しく公平に反するか

等が挙げられます。

 なお,この度の算定表改定は,この「事情の変更」には該当しないと考えられています。

 4 婚姻費用・養育費の算定基準

 家裁実務では,平成15年4月に,東京・大阪の裁判官によって提案されて以来,いわゆる標準算定方式に基づき,婚姻費用・養育費が算定されてきました。 
 標準算定方式を分かりやすく表にしたものが,標準算定表(単に「算定表」ともいいます)です。計算式は少々複雑ですので,割愛します。

 算定表改定による影響

1 改定の趣旨

 上記5のとおり,改定前の算定表は平成15年時点で提案されたものであり,作成にあたり用いられたデータも当時のものです。

 そのため,平成15年当時から現在に至るまでに生じた社会情勢の変化を踏まえ,より現在の社会実態を反映した算定基準とするために,この度の改定が行われた次第です。従って,改定後も,考え方の大枠に変更はありません。 
 もっとも,ベースとなるデータに近時のものが加えられた影響で,算定方法の細かい点について改良が行われています(公租公課,職業費,特別経費の割合等々)。

2 改定後の基準はいつから適用される?

 昨年12月23日より公表されています。そのため,基本的には,これより後に合意ないし調停成立するものに関しては,新基準に従うことになるものと思われます。

3 改定の影響

 新算定表と旧算定表をざっと見比べてみましたが,婚姻費用・養育費とも,全体的に微増傾向にあるという印象でした。もっとも,条件次第では,旧算定表と金額がほぼ変わらないケースもありました。 
 単純に考えれば,基準が微増したわけですから,この度の改定は,請求する側にとっては多少有利に(請求される側にとっては多少不利に)働くといえるでしょうか。

 もっとも,考え方の大枠に変更が加えられたわけではありませんので,この度の改定によって実務が大きく変わることはないものと思われます。

 参考までに,以下,2つのケースを想定し,新旧それぞれの基準にあてはめを行ってみました。

(例)
【ケース1】夫(会社員,年収400万円) 妻(パート,年収120万円),子1人(6歳)

旧基準 新基準
婚姻費用 6~8万円(下限の6万円に近い) 6~8万円(中間の7万円に近い)
養育費 2~4万円(中間の3万円に近い) 2~4万円(上限の4万円に近い)

【ケース2】夫(自営業,年収700万円) 妻(専業主婦,年収0万円),子2人(8歳,14歳)

旧基準 新基準
婚姻費用

18~20万円
(上限の20万円に近い)

20~22万円
(上限の22万円に近い)
養育費 14~16万円
(下限の14万円に近い)

16~18万円
(上限の18万円に近い)

おわりに

  婚姻費用・養育費は生活費の問題ですから,その金額がいくらになるかというのは,請求する側・される側双方の生活を左右し得る重要な問題です。
 弁護士であれば,裁判実務の傾向をふまえつつ,具体的ケースにおける適正な請求金額や,とるべき解決方法について助言可能です。

 既に離婚協議又は調停を進めている方,あるいは,これから別居ないし離婚を検討されている方で,婚姻費用・養育費について疑問・不安がある方は,一度,専門家にご相談されてみてはいかがでしょうか。

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