成年後見と任意後見の基礎知識
~元気なうちこそ,「サードライフ」に備えよう~
法律ミニ講義 2015年12月
弁護士 吉岡 毅/Tsuyoshi YOSHIOKA
今回は,2015年10月3日に開催された当事務所の第10回市民講座「成年後見のイロハ」から,成年後見と任意後見の違いをご説明した部分を中心に抜粋して,法律ミニ講義として再編集しました。市民講座の雰囲気も併せて味わっていただけたら幸いです。
1. 「成年後見制度」って何ですか?
こんにちは!
今日は「成年後見制度」や「任意後見」について,できるだけ分かりやすくお話をしたいと思います。
皆さん,「成年後見制度」をご存じでしょうか。
成年後見は,認知症とか,知的障害や精神障害などを抱えてしまって,物事を判断する能力が十分とは言えない方に,その人の権利を守る援助者を選んで法律的に支援しましょう,という制度です。
その人について,家庭裁判所で選ばれる援助者のことを「成年後見人」と言うんですね。
2. 成年後見と未成年後見の違い
ところで,日常的な感覚で誰かに「後見人」を付けると言った場合,成人した大人に付けるのではなくて,どちらかというと子ども,未成年者に付けるというイメージになりませんか?
実は,「未成年後見人」という制度も,ちゃんとあるんです。
そりゃそうですよね。だって,わざわざ「『成年』後見人」と言っているくらいですものね。
ただ,未成年者にとって法律上の後見人としての役割を果たすのは,普通は,親権者である親なんです。
だから,未成年者の後見人という制度はあるけれども,親権者がいれば,あらためて後見人を選ぶことが少ないので,あまりなじみがないんです。
でも,たとえば親権者の両親が事故で二人ともいっぺんに亡くなってしまったら,子どもは一体どうしたらいいいでしょうか?
そんなふうに,未成年者に対して親権を行う者がいない場合に,家庭裁判所に申し立てて未成年後見人を選任してもらうことになります。
未成年後見人の仕事は,基本的に成年後見人と同じです。
子どもは自分の財産を自分できちんと管理できないから,誰かが代わりにまもってあげよう,って思いますよね。
それと同じように,精神的な病を抱えていたり,認知症になってしまった大人にも,誰か「まもってくれる人」が必要です。
それが「成年後見(人)」という制度なんです。
3. 成年後見の不安の正体~「法定後見」とは?
そうすると,
「よし,自分が将来もし認知症になっちゃっても,きっと誰かが成年後見制度で護ってくれるっていうんだから,もうこれでひと安心だな!」
……って,なりますか?
もちろん,成年後見制度がそういう安心・確実な制度であってほしいですけど,やっぱりちょっと心配ですよね。
じゃあ,いったい何が心配なのかなって,自分が成年後見を受けるかもしれないという立場で冷静に考えてみると,いくつか思い当たることがあります。
まず,いったい「誰が」自分の成年後見人になってくれるの?ってことです。
「娘は嫁に行っちゃってるし,息子は仕事が忙しくて私の身の回りのことなんて面倒見てくれるわけないし。え~?どうなるんだろう!?」
っていう不安です。
誰かにお願いしなきゃいけないときには,もう自分は認知症になっちゃってるんですから,お願いもできないわけです。
不安は,それだけじゃないですよね。
もし誰かが成年後見人になってくれたとしても,いったい「どんなふうに」自分の身の回りのこととか,財産の管理とかをやってくれるのか,全然想像がつかないでしょう。
「もし,見ず知らずの人が自分の成年後見人に選ばれて,テキトーにほっておかれたら困るじゃないか。そんなんじゃ,オレ,すぐ死んじゃうよ。もう何されても分かんないんだから!」
そういう不安ですね。
こういった不安に対処するために,成年後見制度では,「誰が」「どんなふうに」その人を支援すればいいのか,大まかなところは法律で決まっています。
そして,申し立てを受けた家庭裁判所が,法律に従って「誰が」「どんなふうに」支援すべきなのかを考えて,決めてくれるんです。
そうやって,もう自分で自分のことをきちんと決められない状態になってしまっている人について,法律で決められた内容で成年後見が始まる場合のことを,「法定後見」と言います。
家庭裁判所では,誰がどうやって成年後見人に選ばれて,それから,どんなふうに身の回りのことをやってくれるのか,この後でまた詳しくお話ししますね。
4. 自分で決める成年後見~「任意後見」とは?
でも,皆さん。もし今だったら,自分が「誰に」成年後見人を頼みたいか,「どんなふうに」財産管理をしてほしいか,自分で決められると思いませんか?
家庭裁判所に勝手に決めてもらうんじゃなくて,今のうちに自分で,
「もしも私が認知症になってしまったときには,長男のお前に頼むぞ。費用は毎月この口座からこのくらいを使ってくれよ。」
とか,
「この土地は先祖代々の土地だから,売らずに,こういうふうに管理していってほしい。」
とかって,あらかじめ自分で頼んでおきたいと思いませんか。
なにも,ぼけてしまうまで黙って待っていることなんか,ないんです。
そうやって,自分が元気でしっかりしている間にこそ,将来,万が一自分の判断能力が不十分になってしまった場合に備えて,「誰に」,「どんなふうに」支援してもらいたいかを,あらかじめ決めておくことが大切です。
あらかじめ決めておくといっても,ただの口約束だと,忘れられちゃったら困りますから,きちんと書面上の契約で内容を決めておくんです。
それが,「任意後見制度」です。
任意後見では,あらかじめ「誰に」自分の後見を頼むかを決めて,その人との間で「どんなふうに」後見をやってほしいか,細かく契約を結んでおきます。この契約のことを,「任意後見契約」と言います。
任意後見契約は,間違いがないように,公正証書というきちんとした書面で作らなければいけません。
任意後見契約で後見人を頼まれる人のことを,「任意後見人」と言います。
任意後見制度って,なにかちょっと「遺言」と似ていると思いませんか?
任意後見契約は,生きている間に効果のある遺言書を作っておくようなものなんです。
遺言書は自分が死んでからしか効果がないんですから,生きている間に効果を発揮する任意後見契約のほうが,もしかしたら遺言書より大事なのかもしれませんね。
せっかくですから,一度は考えてみてください。
ただし,任意後見も,良いところばかりではありません。一番は,費用がかかる場合があるということです。
もちろん,「法定後見」だって,まったくのタダではありませんよ。
管理してもらう自分の財産の中から,家庭裁判所が決めた報酬を支払うことになるのが普通です。成年後見人が親族だと,払われないほうが多いですけれども。
それと比べると,任意後見は,自分で決めた好きな人と好きなように契約するんですから,親族以外の人に頼めば,通常は費用がかかりますね。
そこは,ある程度は仕方ないかな,と思います。
具体的な費用の額については,法定後見の場合と比べながら,後でまたお話ししますね。
(市民講座でお話しした,この続きは……)
5. 「法定後見」の具体的制度
- 「禁治産」,「準禁治産」から「後見」,「保佐」,「補助」へ
- 「財産管理」と「身上監護」
- 「専門職後見人」と「親族後見人」の役割,「後見監督人」とは?
- 法定後見の手続の流れ
- 成年後見の申し立ての必要書類
- 成年後見(法定後見)にかかる費用と報酬
- 成年後見人になった人の責任 ~「善良なる管理者の注意義務」と「身上配慮義務」とは?
- 「利益相反行為」と「特別代理人」
- 後見の終了,その後は?
6. 後見信託(「後見制度支援信託」)とは?
- 後見制度支援信託の趣旨
- 後見制度支援信託の注意点
7. 任意後見の具体的な手続,費用と報酬
- 任意後見契約の手続と内容
- 公正証書の作成費用
- 弁護士などの任意後見人との契約費用
- 任意後見人の報酬
- 任意後見監督人の報酬
以上