相続をめぐるトラブルとその予防法

法律ミニ講義 2015年8月

弁護士 沼尻隆一/Ryuichi NUMAJIRI

<はじめに>

弁護士としての経験上,最も長引く「紛争」が,相続(遺産分割)がらみの裁判です。
「お金(財産)」に,「愛憎」がからむから,もう大変!! というわけです。
「親族」だけなら「信族」でも,「相続」がからんだとたんに「争族」に!!
そうならないための予防法,相続の基礎知識をお話します。

第1 初級編 ~相続の基礎知識~

「遺言」は「法定相続」に優先する
相続に関して,大切な人が亡くなったらまずやることは?ときかれたら,何と答えますか。
答えは,「遺言書があるかないかを確認すること」です。
遺言書の中で,法定の相続分を守る必要はありません。極端な話,赤の他人に自分の遺産を全て譲渡する,といった内容の遺言も,遺言としては100%有効です。
「遺産の分け方」などで,もめないようにするためには,やはり,「きちんとした形で遺言書を残しておくこと」がベターです。

第2 中級編 ~「遺留分」の問題を中心として~

1.遺留分

とはいえ,いくら遺言書を残しておいても,「遺留分(いりゅうぶん)」を侵害するような内容だと,かえって紛争の火種を残すことになり,逆効果です。
「遺言」の内容が「遺留分」を侵害する場合に,一定の要件のもとで,遺留分割合に相当する財産の返還を請求できる権利,これを,「遺留分減殺(げんさい)請求権」といいます。

2.遺留分減殺請求の対象となる財産,ならない財産

(1)遺留分減殺請求の対象と「なる」財産(大きく分けて次の3つ)

「遺言」によって相手方が取得した財産(これを「遺贈」といいます。)
死因贈与(遺贈に似ていますが,死因贈与は「契約」です。分かりやすく言えば「遺言書」ではなくて「契約書」で行う贈与と考えればよいです。)
生前贈与(民法1030条により一定の要件を満たしたものに限られます。)

(2)原則として,遺留分減殺請求の対象と「ならない」財産

死亡退職金(就業規則にもとづき給付されるもの)
遺族給付金(厚生年金法や公務員共済法などにもとづく遺族の生活保障金)
生命保険金(死亡保険金)(一番重要なのはこれです!!)

(3)生命保険金(死亡保険金)について

たとえば,被相続人(亡くなった人)が生前に,自分自身を契約者,被保険者として保険を契約し,特定の第三者を「保険金受取人」と指定し,被相続人が亡くなった場合に多額の死亡保険金を受け取っても,それは「相続によって得た」ものではないとされ,遺留分減殺請求の対象とならないのが原則です。
ただし,平成16年10月29日の最高裁判例があります。これは,極めて例外的に「遺贈」「贈与」と同視される可能性もありうることを認めた判例です。
(赤の他人ではなくて相続人の一人が,保険金受取人だった場合)

第3 上級編 ~遺留分の問題を回避するには~

遺言書の書き方

遺言書で,遺産の受取人に指定しない相続人(ただし,兄弟姉妹は除く)の遺留分の割合を意識して,その分は侵害しないように配慮する。(つまり,多少の遺産はその人に分与してあげる)。

「生前贈与」

「相続人」に対する,以下の内容の贈与でなければ,遺留分減殺請求の対象となる「生前贈与」にあたりません。
相続開始前1年以内にしたものでない贈与(1030条)
譲渡人と譲受け人が,双方とも遺留分権者を害することを知ってなしたものでない贈与(1030条)
婚姻,養子縁組のため,もしくは生計の資本として与えたものでない贈与(1044条)
不相当な対価でした有償譲渡(1039条)

「生命保険」

「原則として遺留分の減殺対象とはならない財産」がたしかに存在します。
その代表例が,生命保険(死亡時受取金)です。
なお,生命保険の場合,「500万円×法定相続人の数」は非課税枠です。死亡保険金の受取人が相続人(のうちの誰か)であれば非課税枠が適用され,その受取人が相続人のうち一人だけであっても,非課税枠は500万×法定相続人の数となります。

遺留分対策,税金対策ともに,生命保険はおすすめ(まさかのときの備えにも)

以上

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