交通事故における駐車車両の責任
弁護士 堀哲郎
10年ほど前に扱った交通事故の事件ですが、
民事裁判(訴訟)で、
駐車中(運転手は車から離れていました)の車の運転手に
損害賠償責任が認められた、珍しい事例があります。
事案は、
小学3年のAちゃんが自転車で走行中、
進路前方に違法駐車(駐車禁止違反)していたトラック(B車)を
迂回しようとして対向車線に出たところ、
正面から来たフォークリフト(C車)にはねられ死亡した
という交通事故です。
この事故で、
B車運転手は車庫法違反容疑で、
C車運転手は業務上過失致死容疑で、
それぞれ送検されましたが、いずれも不起訴処分となりました。
すなわち、
いずれの運転手も「刑事責任なし」
とされたのです。
尊い人命が奪われた交通事故でありながら誰にも責任がない
という結論には、誰もが納得できないでしょう。
そのため、民事裁判で両運転手の責任を問うことにし、
不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起したわけです。
刑事で責任なしとされた事案ですから、
民事上の責任を認めさせるについても相当な困難が予想されましたが、
駐車車両運転手に交通事故の責任があるかどうか、
細かく言えばB車と交通事故との間に因果関係が認められるかどうかが
最大の争点になりました(衝突したのはあくまでもA自転車とC車です。)。
裁判例を調べてみましたが、
駐車車両自体に衝突した事例
(これとても駐車車両に責任が認められた事案は稀です。)
や
本件のAとCの立場が入れ替わったような事例
は見られましたが、
本件のような事案は見当たりませんでした。
結論を言うと、裁判所は、
原告側の主張を容れ、B車運転手の責任を認める判決を出しました。
法理論的な詳細は省きますが、要するに、
B車は、本件事故現場付近に日常的に違法駐車していたもので
(この事実の立証が決め手となりました。)
事故現場付近を走行する車両運転者の過失を誘発し、
交通事故発生の危険性を生じさせた
として、因果関係を認めたのです。
この事件は、私にとって、
数多く手掛けてきた交通事故損害賠償請求事件のなかで、
最も印象深いものとなっています。
ちなみに、同僚の鈴木幸子弁護士との共同受任でした。
共同事務所の利点を存分に発揮できたケースと言えます。
(現在、当事務所には7人の弁護士がいますが、
単独で受任するほか、
事件の種類、内容等によっては複数で受任しています。)