交通事故における駐車車両の責任・2
弁護士 堀 哲郎
以前(2012年10月),本ブログに,「 交通事故における駐車車両の責任( 旧・公式ブログ ) 」と題して,駐車中(運転手は車から離れていました。)の車の運転手の民事責任について述べましたが,今回は刑事責任について述べてみようと思います。
事案は,小学生Aが自転車で走行中,進路前方に違法駐車(駐車禁止区域)していたトラック(B車)を迂回しようとして対向車線に出たところ,正面から来たフォークリフト(C車)にはねられ死亡したという交通事故です。この事故で,B車運転手は車庫法違反容疑で,C車運転手は業務上過失致死容疑で,それぞれ送検されましたが,いずれも不起訴処分となり,「刑事責任なし」とされました。
しかし,私は,B車運転手には,車庫法違反のみならず,業務上過失致死罪の責任を問う余地があったのではないかと思っています。この点,つい最近(2015年6月2日),興味深い事件が発生したので,紹介します。
が,その前に,人身交通事故を起こした場合の刑事責任を規定した法律を整理してみます。
上記事案当時(平成13年9月)は,刑法211条の「業務上過失致死傷罪」で,法定刑は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金でした。
その後,平成13年に,同条2項に「自動車運転過失致死傷罪」が追加され,法定刑が,7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に引き上げられるとともに,新たに同法208条の2に「危険運転致死傷罪」が追加され,法定刑は,負傷させた場合が15年以下の懲役,死亡させた場合が1年以上の有期懲役というように厳罰化されました。
そして,平成25年には(施行は平成26年5月20日),上記「自動車運転過失致死傷罪」及び「危険運転致死傷罪」が刑法から削除され,新たに特別法として成立した「自動車運転死傷行為処罰法」の中に「危険運転致死傷罪」,「過失運転致死傷罪」として規定されました(法定刑は変わりません)。
ところで,これらは,いずれも自動車を運転中であることが構成要件とされています。したがって,駐停車中の車両に適用の余地はありません。
そこで,さきほど触れた興味深い事件ですが,事案は,片側2車線の道路左側(駐停車禁止区域)に停車していた乗用車(D車)の運転手が,降車のため,運転席ドアを開けたところ,後方から原付バイクで走行してきたEが衝突,転倒し,さらに後方からきたタクシー(F車)にひかれ死亡したという交通事故です。
この事故で,警察は,D車運転手を業務上過失傷害(後に業務上過失致死に切り替え。)容疑で現行犯逮捕しました。すなわち,D車運転手の刑事責任として業務上過失致死罪に問おうというわけです。
そうすると,冒頭に述べた事案についても,業務上過失致死罪に問う余地があったのではないかと考える次第ですが,後の事案では,停車していたとはいえ,運転手はまだ車内にいたのに対し,先の事案では,一時的にせよ,運転手は車から離れていたというところが,「業務上過失致死傷罪」の成否に影響するかもしれません。
いずれにせよ,人身交通事故のほとんどは「自動車運転死傷行為処罰法」が適用されるでしょうが,刑法の「業務上過失致死傷罪」が適用される余地もまだまだ残されていると言えます。