2016年9月27日

「民事執行法」改正の動き

弁護士 鈴木幸子

 

民事裁判で判決が出た(例えば,交通事故などの損害賠償,貸したお金の返済,滞納した賃料の支払い,請負代金・売掛金の支払い等を命ずる判決),離婚事件の調停で養育費の支払いを約束した,のに相手方が任意に支払ってこない場合には,強制的に取り立てざるを得ません。この手続き(強制執行と言います)について定めた法律が「民事執行法」です。

 

強制的に取り立てることができるのは,相手名義の資産です。そして,相手方名義の資産の中でも最も取り立てやすい資産が預貯金です。不動産や動産類のように換価する面倒がないからです。ところが,強制執行をするには,相手方のどこの銀行の預貯金かを特定しなければなりません。従来の法律では,裁判所がそこまで調べてくれるわけではないので,強制執行を求める側が調べなければなりませんでした。私ども弁護士にもさして調査能力があるわけではないので,依頼者の方が把握している預貯金口座や相手方の住所地近辺の都市銀行の支店やゆうちょ銀行(大方の人が口座を開設しているので)に当たりをつけて強制執行の申立てをせざるを得ません。相手方も当然のことながら用心しますから,こちらが把握している預貯金口座はさっさと解約してしまうか,まとまったお金を置いておかないなどの防御策を講じてきます。また,強制執行するのには当然費用が掛かります(申立てだけで1件当たり10,000円弱,第三債務者に対する陳述催告と言って,金融機関に残額の回答を求める場合には,1件ごとに2,000円弱の追加となります)ので,やみくもに当たりをつけた申立てをするわけにもいきません。その結果は空振りに終わることも多く,結局,費用と時間をかけて判決を得ても,「かみっぺら」同然となってしまいます。特に,養育費については,子どもの成長にとって必要不可欠ですから,約束の不履行は深刻な問題ですが,養育費の取り決めをした半数が履行されていないのが現実です。

 

法務省は,以上のような現状を踏まえて,この度,早ければ2018年を目途に民事執行法を改正し,支払い義務を履行しない者の預貯金口座情報を,裁判所が銀行などに照会できる制度を導入する方向で,法制審議会に諮問しました。金融機関は,私ども弁護士からの弁護士会を通じての照会には,個人情報を盾に情報の開示を拒んできましたので,民事執行法が改正されれば,朗報と言えましょう。

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