2018年1月16日

子どもの連れ去りと離婚後の子どもとの面会交流

弁護士 鈴木幸子

 

 

昨年11月,最高裁判所は,「子どもの引き渡しに関する『ハーグ条約』に基づき,母親に連れられて日本に入国した16才に満たない子らの返還を求める米国在住の父親の申請を認めた高等裁判所の決定」を変更し,返還を認めないとする決定をした。

その理由は,高等裁判所の決定が確定した後に,返還を求めた父親の自宅が競売にかけられ,父親の養育環境が悪化したことにより,「子らを返還することによって,子らの心身に悪害を及ぼすことその他子らを耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること(ハーグ条約の実施に関する法律28条1項四)」という例外的な拒否事由に該当するからであるとした。

 

「(主として母親による)無断の連れ去りにより有無を言わさずに親子関係を断絶された」と主張する親(主として父親)は,ハーグ条約を論拠として「無断の連れ去り行為」は違法であると非難する。

しかし,ハーグ条約が,原則として一旦子を元の居住国に返還すべきとするのは,子がそれまで暮らしていた国の司法の場で,子の生活環境に関する情報(元の居住国の司法の方がより正確かつ豊富な情報を得やすい)や両親双方の主張を十分に考慮したうえで,子の監護についての判断を行うのが望ましいと考えたからである。また,上記最高裁判所の決定のように,ハーグ条約においても,すべての「無断の連れ去り行為」を違法としている訳ではなく,子の利益の観点から,例外を認めているのである。したがって,ハーグ条約が,日本国内での「無断の連れ去り行為」を違法として非難する論拠たり得るかについては疑問が残る。

 

現に,わが国の家庭裁判所は,別居時に無断で子を連れて出る行為は,暴力をともなうものでない限り違法としていない。その一方で,平成23年の民法改正により,父母が協議上の離婚をするときは,子との面会交流について必要な事項を協議で定めることを義務付け,協議が整わないとき又は協議ができないときは,家庭裁判所が定める(民法766条)と規定されて以降,家庭裁判所は,よほどの事情が認められない限り,原則的に面会交流を認める方針に転換した。このような家庭裁判所の考え方が親権をめぐって,あるいは面会交流をめぐって,より深刻な対立を生むこととなった。

続く

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