2024年6月30日

労働者に対する懲戒処分

弁護士 水口 匠

1 懲戒処分とは

懲戒処分とは、従業員が行なった非違行為(服務規定に反する行為)に対して会社(使用者)が加える制裁のことをいいます。
懲戒の種類としては、譴責、戒告、減給、出勤停止、論旨退職、懲戒解雇などがあります。

懲戒処分は、従業員に対して加えられる罰ですので、刑事罰に似た性格を有しているといえます。
そのため、懲戒をするに際しては、適切な手続きが経られていることや不当に重くなってはならないことが必要になります。

 2 懲戒処分の有効性

まず、会社による恣意的な懲戒権の行使を防止するため、会社が従業員に対して懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておかなければなりません。

実際、各事業所の就業規則には、懲戒規定が存在していることが多いと思いますが、その中には「その他前各号に準ずる行為があったとき」などとして、包括的な規定を設けていることも多いと思います。
確かに、すべての懲戒事由を規則の中に網羅するのは困難ですので、この規定自体に問題があるわけではありませんが、「準ずる行為」という抽象的な内容のみを根拠として懲戒処分を行う時は、相当な注意が必要になると思いますので、できるだけ避けた方がよいでしょう。

また、懲戒処分を行う際には、当該従業員に対してあらかじめその旨の告知、聴聞、弁明の機会を設けることも必要です
なお、就業規則等に懲戒の際の手続規定がある場合には、それを遵守する必要があることは当然です。

さらに、労働者を懲戒することができる場合においても、法律は、「当該懲戒が、当該懲戒にかかる労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合は、その権利を濫用したものとして当該懲戒は、無効とする」と定め、使用者の懲戒権に一定の制約をかけています(労働契約法15条)。特に懲戒解雇など、従業員の身分を失わせる処分については労働者に与えるダメージが極めて大きいため、慎重に検討する必要があります。

「社会通念上相当」といえるかどうかについては、

①非違行為の態様、会社の業務や他の従業員に及ぼす影響、会社が被る損害の大きさ、従業員の地位や勤務歴、その他の事情に照らして、不当に重い処分となっていないか
②同様の非違行為に対して異なる懲戒処分を行っていないか

などをチェックすることになります。

その他、懲戒処分当時に会社が認識していなかった非違行為については、その行為を当該懲戒の有効性の根拠とすることはできません。
したがって、懲戒処分通知を出す際には、重大な非違行為の認識漏れや記載漏れ等がないか確認することも必要になります。 

3 具体例の検討

従業員の懲戒が検討される例は様々ですが、ここでは3つ挙げてみます。

何度も指導を受けているのに同じミスを繰り返す場合

ミスの内容によっては、重大な損害が生じ、業務に著しい支障を生じさせるなど、会社の秩序を乱すこともあるため、懲戒処分の対象となることもあります。
ただし、ミスの多い従業員に対して適切な注意・指導をするなど、適切な措置を講じないまま懲戒処分にすると、懲戒権の乱用になることも考えられます。
したがって、まずは再発防止のための注意・指導をしっかりと行い、従業員に対しミスを減らすための努力をさせることが必要です。
その際は、いつ、どのような注意・指導を行ったのか、しっかりと記録しておくことも大切です。

このような措置を講じていたことを前提に、ミスの程度や会社に与える影響、従業員の地位や職務内容、従業員の態度などを考慮して懲戒処分を決めることになります。

もっとも、解雇を伴う厳しい処分については、ミスの程度が著しく、会社に与えた損害も重大であることを前提に、解雇以外に方法がないといった事情も必要になるでしょう。

普通解雇の事案ですが、解雇権濫用について、
①単なる成績不良ではなく、会社の経営や運営に支障を生じ、または重大な支障が生じるおそれがあること
②注意し、反省を促しても改善の見込みがないこと
③従業員に宥恕すべき事情がないこと
④配転や降格などができないこと

などの事情を考慮するべきとした裁判例があります。

業務中に居眠り運転で交通事故を起こした場合

従業員が交通事故を起こした場合には、まず、その事故の態様や被害の状況を把握する必要がありますので、従業員や保険会社、あるいは従業員の弁護人などに聴取することが肝要です。

また、本件は居眠り運転ということですが、例えば会社が従業員に過重な労働をさせていたというような事情がある場合には、従業員のみに責任を問うことはできないでしょう。
裁判例上も、会社が安全配慮義務を尽くしたかどうかについても考慮した上で、交通事故の主な原因が労働者にあるかを判断し、懲戒権の必要性があるかを決めるべきとするものがあります。

そうすると、例えばトラック運転手の場合であれば、基準で定められた運転時間や休憩時間が守られているかどうかという、会社側の事情も、懲戒を定めるにあたっては考慮する必要があるでしょう。

もっぱら従業員の側に過失があるような場合には、懲戒処分をすることも認められますが、どの程度の懲戒にするかは、事故の態様や被害の状況、被害弁償の進展状況なども含めて判断することになります。

飲酒運転で検挙された場合

従業員の業務外における行為であっても、会社の秩序維持に直接関連したり、企業の社会的信用を棄損するおそれのあるものは懲戒の対象となります。

飲酒運転により懲戒処分をするにあたっては、例えばバスやタクシーの運転士など自動車の運転が業務となっている場合には、会社の秩序維持に直接関連し、企業の社会的信用を棄損するおそれの高いものとして、懲戒解雇等厳しい処分になると思われますし、地位や役職が高い社員であれば、他の社員の統制上も、厳しい処分を科すこともやむを得ないでしょう。

あとは、当該従業員の職種や地位、どの程度飲酒をしたのか(飲酒運転化、酒酔い運転かなど)、事故を起こしたのか、どのような事故か、飲酒運転の常習性があるのかなどの事情を考慮し、会社の社会的信用の低下の程度を考えて処分を下すことになります。

ただし、飲酒運転については近年、社会的批判が強くなり、法律も厳罰化されているという状況からすると、飲酒運転による懲戒処分は厳しいものであっても有効とされる傾向になってきていると思われます。

 

このように、従業員に対する懲戒については、その制裁的な性格ゆえに、法律は適正な手続と処分内容の相当性を求めており、中でも最も重い処分である懲戒解雇は厳格に判断されることになります。

時に従業員を懲戒せざるを得なくなることもあり得ると思いますが、その際には、この適正手続きと相当性を備えるという意識をもつとよいでしょう。

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